2025/09/10
ここでは、逐語録からコード、コードからサブカテゴリ、サブカテゴリからカテゴリへの抽象化の各段階についてお伝えいたします。
1. 抽象化の3段階
1-1. 第1段階:逐語録→コード
まず定義を固定します。コードは、逐語録の一部をそのまま短くするのではなく、逐語録の一部の「超要約」です。
コード化でやることは、主に次の2つです。
- 何が起きたか(行為・判断・感情)を、短く固定する
- そのコードが、逐語録のどの部分の要約なのかがズレないようにする
この段階で落としすぎると、あとでカテゴリ説明ができなくなります。最低限、残すべき情報の型を持っておくのが安全です。
- 主体(誰が)
- 対象(誰に・何に)
- 内容(何を)
- 条件(いつ・どのくらい・頻度など)
- ニュアンス(勧め・反省・葛藤・拒否など)
1-2. 第2段階:コード→サブカテゴリ
サブカテゴリは、似たコードを束ねる中間の整理棚です。
ここで大事なのは、見た目が似ているからまとめるのではなく、「似ている理由」を言語化して束ねることです。
サブカテゴリ名は、コードの言い換えになりやすいポイントです。名前の粒度は次の方針が安定します。
- コードの言い換えではなく、束ねた理由になる名前にする
1-3. 第3段階:サブカテゴリ→カテゴリ
カテゴリは、最終的に説明するときの論点の単位(説明の単位)です。
サブカテゴリ群を、研究目的に沿った「論点」へ押し上げます。
カテゴリ名でよく起きる失敗は、広げすぎて空疎になることです。たとえば「健康」「コミュニケーション」のような万能語に逃げると、入れ物はできても説明ができません。
- カテゴリ名は広すぎて空疎にならないようにする
- 「健康」「支援」「コミュニケーション」などの万能語だけで終わらせない
2. 具体例(りんご)で、第2段階・第3段階を見せる
ここからが核です。ひとつの逐語録が、抽象化の階段を上がるとどう変わるかを、そのまま並べます。
2-1. 逐語録(例)
- 「だから私はね、りんごを一週間に一個は食べたほうがいいって言ったの。」
2-2. 第1段階:コード(逐語録の一部の超要約)
- コード:「一週間に一個、りんごを食べることを勧めた」
超要約の注意:ここで「勧めた」を落として「りんご摂取」だけにすると、行為(助言)が消えます。
行為が消えると、後工程で「誰が何をした話だったか」が薄くなります。
2-3. 第2段階:サブカテゴリ(同じコードの”束ね方”が複数あり得る)
同じコードでも、束ねる角度(見方)によって、入る棚が変わります。
- サブカテゴリ案A:「看護師の勧め」
- サブカテゴリ案B:「食生活」
この違いは、「どれが正しいか」ではなく、どの角度で論点を組み立てたいかの違いです。
- 「看護師の勧め」=専門職としての助言行動で束ねる
- 「食生活」=生活行動・食習慣という行動領域で束ねる
2-4. 第3段階:カテゴリ(論点へ押し上げる)
さらにカテゴリでは、サブカテゴリを「説明の単位(論点)」に持ち上げます。たとえば次のように行き先が複数出ます。
- カテゴリ例A:「専門職による生活改善の介入(助言・指導)」
- カテゴリ例B:「日常の食行動を変えるための働きかけ」
- カテゴリ例C:「健康行動を促すコミュニケーション」
ポイントは、カテゴリが「全部入りの言葉」にならないこと。
誰が/何を/どう動かしたが、カテゴリ名からうっすら想像できる状態を目指します。
3. サブカテゴリは「使う場合」と「使わない場合」がある
サブカテゴリは便利ですが、常に必須ではありません。作るほど良い、ではなく、作る理由があるときに入れるのが運用として安定します。
3-1. サブカテゴリを使う場合(向いている条件)
- インタビュー内容が厚く、論点が多い(コードが多方面に散る)
- インタビューガイドが複線的(テーマが複数レーン)
- 発言が濃く、コードが増えやすい(似た塊が複数できる)
3-2. サブカテゴリを使わない場合(飛ばしても成立する条件)
- そもそもコード数が少なく、論点が単純
- ガイドが単線的で、カテゴリに直で束ねても説明できる
- サブカテゴリを作っても「棚が増えただけ」になり、説明の得がない
3-3. 実務判断の基準(短いチェック)
- 「カテゴリを説明するとき、コードに何回も戻って補足しているか?」
- 何度も戻るなら、サブカテゴリが”橋”として必要になりやすい
- 「カテゴリが万能語になっていないか?」
- 万能語化しているなら、サブカテゴリ不足、または第3段階で抽象化し過ぎのサイン
4. どこで抽象度を上げるか:上げる”理由”を固定する
抽象化は、思いつきで上げると破綻します。
各段階で「なぜ上げるのか」を固定すると、迷いが減ります。
- 第1段階で上げる理由:逐語のままだと比較できないから(超要約で比較可能にする)
- 第2段階で上げる理由:コードが増えると、論点の塊が見えなくなるから(棚が要る)
- 第3段階で上げる理由:成果物は”論点”で説明されるから(説明単位にする)
5. 上げ過ぎて情報が消える瞬間(りんご例で”消える”を見せる)
5-1. 消える瞬間の典型パターン
- 主体が消える(誰が言った/誰がやったが消える)
- 行為の種類が消える(勧めた、迷った、拒んだ、などが消える)
- 条件が消える(一週間に一個、という具体が消える)
- 文脈が消える(なぜ言ったか、どんな状況かが消える)
5-2. りんご例:やり過ぎ抽象化の例(NG)
- カテゴリ:「健康」
- 何も説明できない(「健康」は何でも入る)
- カテゴリ:「食事」
- 誰が何をどうしたかが薄い(助言行為が消えやすい)
5-3. “消えた”と判定する実務テスト
- そのカテゴリ名だけ見て「何が起きたか」が想像できないなら、消えている
- そのカテゴリに入るコードが「何でも入りそう」なら、消えている
- カテゴリ説明のときに「結局、元の逐語録を読まないと伝わらない」なら、消えている
6. 抽象度を上げても情報をなくさない方法(運用のコツ)
抽象化は”上げる技術”というより、消さない運用です。ここだけは型として持っておくと強いです。
- コードは「逐語録の超要約」なので、落としてはいけない要素を先に決める
- 例:主体/行為/条件(頻度・程度)だけは残す
- サブカテゴリ名は「コードの言い換え」ではなく、束ねた理由にする
- カテゴリ名は万能語禁止(健康・支援・コミュニケーション等で逃げない)
- 迷ったら、カテゴリ名に動詞や作用が入る形に寄せる
- 例:「健康」→「健康行動を促す助言」
参考として、段階ごとの「残す意識」を1枚にしておきます。
| 段階 | 上げる目的 | 消しやすい情報 | 最低限残す |
|---|---|---|---|
| 逐語録→コード | 比較可能にする | 行為・条件 | 主体/行為/条件 |
| コード→サブカテゴリ | 塊(棚)を作る | 束ねた理由 | 似ている理由(言語化) |
| サブカテゴリ→カテゴリ | 論点にする | 具体性(万能語化) | 論点として何が起きたか |
以下でコード化・カテゴリ化を論文に反映することについてお伝えしています。

