質的研究のコード化・カテゴリー化を体系的に解説|実践ガイド

質的研究の理論的飽和とインタビュー人数|なぜ事前に決められないのか

time 2026/02/06

理論的飽和とは、新たなデータを収集・分析しても、既存のカテゴリーに新しい情報が加わらなくなった状態を指す。グラウンデッド・セオリーにおけるデータ収集の終了判断基準だ。

しかし、この判断には根本的な難しさがある。理論的飽和は、後からしか分からないのだ。

飽和点は事前に予測できない

たとえば、10人目のインタビューで理論的飽和に達したとする。

だが、それが分かるのは、11人目、12人目とインタビューを重ねて、「既存のカテゴリに新しい情報が加わらなかった」ことを確認した後だ。10人目の時点では、まだ飽和したかどうか分からない。

つまり、理論的飽和は結果論でしか判断できない。

「10人目までのインタビューで理論的飽和を迎える」と事前に予測することは不可能だ。研究テーマや対象者の多様性によって飽和点は変わる。やってみなければ分からない。

現実の研究には人間関係がある

ここで、理論と現実の乖離が生じる。

現実の研究では、インタビュー協力者を事前に確保している。日程を調整し、場所を決め、相手の時間を押さえている。研究協力への同意も得ている。

10人目で飽和に達したとしても、すでに11人目、12人目との約束がある。

その人たちに「もう必要ありません」と言えるだろうか。

言いづらい。実際のところ、言えない。

協力を約束してくれた相手に対して、「飽和したからキャンセルします」は礼を欠く。研究者としての信頼にも関わる。

結果として「余分な」インタビューが生じる

だから現実には、理論的飽和に達した後も、約束したインタビューは実施することになる。

これは無駄ではない。飽和を確認するためのデータとして意味がある。また、予想外の新しいカテゴリーが出てくる可能性もゼロではない。

ただ、理論上の「飽和したら終了」という原則とは、ズレが生じる。このズレを認識しておくことが重要だ。

研究計画を立てるときに考えておくべきこと

理論的飽和の性質を踏まえると、以下のことを事前に考えておく必要がある。

  • 飽和点は後から分かるものだと認識しておく
  • 協力者への依頼は、飽和後も実施する前提で計画する
  • 「飽和したから終了」ではなく、「飽和を確認できた」という位置づけで考える

人数を最小限に抑えたい気持ちは分かる。だが、現実の研究には人間関係がある。約束は守るものだ。

まとめ

理論的飽和は、後からしか分からない。10人目で飽和したかどうかは、11人目、12人目をやって初めて確認できる。

そして、現実の研究では、事前にインタビューを約束している。飽和に達しても、「もういい」とは言いづらい。

この乖離を認識したうえで研究計画を立てること。それが、理論的飽和という概念と現実的に付き合う方法だ。

→ 続きの問い:質的研究の理論的飽和。新しいカテゴリーを作れば飽和しない?

この記事を書いた人

タイナーズ 代表 西山勝之

タイナーズの代表者。2006年以来、議事録作成は元より、整文、要約、質的研究素材づくりなど、広く言語に関わる業務の陣頭指揮を執っている。言語学を応用した研究領域の大学院既卒者(修士)。表現のニュアンスを大切にしている。