質的研究のコード化・カテゴリー化を体系的に解説|実践ガイド

量的研究と質的研究の違い。「量れないもの」をどう扱うか

time 2026/01/14

量的研究と質的研究の違いを分かりやすく説明する際、「量れるものを扱うのが量的研究、量れないものを扱うのが質的研究」と言われることが多い。
この説明は誤りではないが、それだけでは質的研究が実際に何をしているのかは見えにくい。

本稿では、質的研究のコード化・カテゴリー化が「量れないもの」をどう扱っているのかという観点から、両者の違いを整理してみたい。

量的研究は「最初から量れるもの」を扱う

量的研究が扱うのは、数値で表せるデータである。身長、体重、血圧、テストの点数、来院回数、所要時間など。これらは最初から「量れる形」になっている。

データを集めたら、平均値を出したり、グループ間で差があるかを検定したり、統計処理によって傾向や差を分析する。数値があるから計算ができ、計算ができるから比較ができる。

質的研究は「量れないもの」を扱う

一方、質的研究が扱うのは言葉で語られるデータである。インタビューで聞き取った体験談、感情、意味づけ、解釈など。「あのときは本当につらかった」「やりがいを感じた瞬間があった」「どちらを選ぶか葛藤した」といった語りである。

これらは数値ではない。そのままでは数えられないし、平均も出せない。AさんとBさんの「つらさ」を足して2で割ることはできない。

ただし、ここで注意しておきたいことがある。

質的研究が「量れないもの」を扱うというのは、説明としては有効だが、厳密には少し粗い。実際には、質的研究も「量れるもの」を完全に排除しているわけではない。インタビュー対象者の年齢や経験年数といった数値情報を参考にすることもある。

また、量的研究でも「満足度」「不安」「QOL」など、本来は量れない概念を尺度化して扱うことがある。5段階評価や質問紙によって、量れないものを数値に変換しているのである。

つまり、「量れるか量れないか」という二分法だけでは、両者の本質的な違いを捉えきれない。違いはむしろ、データをどう扱い、何を問うかにある。

コード化・カテゴリー化は何をしているのか

では、質的研究ではこの「量れないもの」をどう扱うのか。ここで登場するのがコード化・カテゴリー化という作業である。

コード化とは、語りの中から意味のあるまとまりを見つけ、短いラベル(コード)を付けていく作業である。たとえば「毎日残業で体がきつかった」という発言に「身体的負担」というコードを付ける。

次に、似たコードをまとめてカテゴリーを作る。「身体的負担」「精神的消耗」「時間的制約」といったコードを束ねて「業務上の困難」というカテゴリーにする。

カテゴリーができると、「業務上の困難というカテゴリーは、10人中8人の語りに見られた」と言えるようになる。つまり、言葉のデータが「数えられる単位」に変換されたということである。

「量れるようにする」と「量的研究になる」は違う

ここで注意が必要なのは、コード化・カテゴリー化によって数えられるようになったからといって、質的研究が量的研究に変わるわけではないという点である。

量的研究は「どれくらいか」を問う。数値の大小、差の有無、相関の強さなどが関心の中心である。

質的研究は「なぜか」「どのようにか」を問う。カテゴリーが何人に見られたかという数は参考情報にはなるが、それ自体が結論ではない。「なぜそのカテゴリーが生じるのか」「対象者にとってどういう意味があるのか」「カテゴリー同士はどう関係しているのか」を探ることが目的である。

「量れないものを扱える単位に変換する」ことと、「量れるものとして扱う」ことは異なる。コード化・カテゴリー化は前者の作業であり、後者に陥らないところに質的研究の要点がある。

結論

量的研究と質的研究の違いは、「量れるもの」と「量れないもの」の違いだけではない。

質的研究のコード化・カテゴリー化は、量れないものを「扱える単位」に変換する作業である。しかし、変換した後も、数値ではなく意味を問い続ける。そこに質的研究の本質がある。

この記事を書いた人

タイナーズ 代表 西山勝之

タイナーズの代表者。2006年以来、議事録作成は元より、整文、要約、質的研究素材づくりなど、広く言語に関わる業務の陣頭指揮を執っている。言語学を応用した研究領域の大学院既卒者(修士)。表現のニュアンスを大切にしている。