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現象学的アプローチは難しい|インタビュアーに求められる2つの能力

time 2026/01/22

現象学的アプローチは、当事者の主観的な体験世界を深く理解することを目指す。研究者は先入観を括弧に入れ、対象者の語りに忠実に向き合う。理念としては美しい。しかし、これを実践するのは、実はかなり難しい。

ただ聞いていればいいわけではない

「語りに忠実に向き合う」と聞くと、回答者の話をひたすら傾聴すればよいように思えるかもしれない。だが、それだけでは現象学的アプローチは成立しない。

インタビューの最中、回答者は様々なことを話す。その中から「ここが本質だ」と気づき、その場で深掘りする質問をしなければならない。後からテープを聞き直して「ここを掘り下げればよかった」と思っても遅い。インタビューは一回きりの機会だからだ。

インタビュアーに求められる2つの能力

現象学的アプローチを実践するには、以下の2つの能力が不可欠だと考える。

1. 理解・洞察能力

回答者が話す内容にアンテナを立て、「ここが重要だ」と気づく力。表面的な言葉の裏にある体験の本質を見抜く洞察力。これがなければ、深掘りすべきポイントを見逃してしまう。

2. 言語表出能力

気づいたことを、適切な質問として言葉にする力。洞察できても、それを質問として表現できなければ意味がない。しかも、インタビューの流れを止めず、回答者が話しやすい形で問いかける必要がある。

聴く・気づく・問うの同時進行

現象学的アプローチのインタビューでは、以下の3つが同時進行で求められる。

  • 聴く:回答者の話を正確に受け取る(先入観を排除しながら)
  • 気づく:本質的な部分を見抜く(リアルタイムで)
  • 問う:深掘りする質問を言葉にする(即座に、適切な表現で)

これは相当に高度なスキルだ。単に「傾聴しましょう」「先入観を捨てましょう」という心構えだけでは到達できない。

能力が不足するとどうなるか

理解・洞察能力が不足すると、重要なポイントを見逃す。回答者が核心に触れかけても、それに気づかず次の質問に移ってしまう。

言語表出能力が不足すると、気づいても掘り下げられない。「もう少し詳しく教えてください」という漠然とした質問しかできず、回答者も何を話せばいいかわからなくなる。

結果として、インタビューは表面的なやり取りに終わり、体験の本質には迫れない。

結論

現象学的アプローチは、理念として語られることが多い。しかし、それを実践するには、理解・洞察能力言語表出能力という2つの高度なスキルが必要だ。

「語りに忠実に向き合う」という美しい言葉の背後には、インタビュアーの相当な力量が求められている。この点を軽視すると、現象学的アプローチは理念倒れに終わってしまうだろう。

この記事を書いた人

タイナーズ 代表 西山勝之

タイナーズの代表者。2006年以来、議事録作成は元より、整文、要約、質的研究素材づくりなど、広く言語に関わる業務の陣頭指揮を執っている。言語学を応用した研究領域の大学院既卒者(修士)。表現のニュアンスを大切にしている。