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ナラティブインタビューは「自由に語ってもらう」だけでいいのか

time 2026/03/24

ナラティブインタビューのポイントは「自由に語ってもらう」ことにある。研究者は最小限の質問にとどめ、対象者が自分のペースで体験を語る時間を重視する。理想的には、研究者は聴き手に徹し、対象者の物語に任せる。

しかし、現実はそう単純ではない。

自由に語れる人ばかりではない

対象者が饒舌で、話の組み立てが上手な人であれば、「自由にお話しください」という一言で物語が流れ出す。しかし、すべての人がそうではない。

寡黙な人、話すのが苦手な人は、自由に語れと言われても何から話せばいいか分からない。沈黙が続き、気まずくなる。話の整理が苦手な人は、語り始めても時系列が前後したり、話が飛んだりして、物語として分かりづらくなる。

つまり、ナラティブインタビューは対象者の属人的な要素に左右される手法だ。「自由に語ってもらう」という理念は美しいが、それが機能するかどうかは対象者次第、という側面がある。

研究者は「方向指示器」の役割を果たすべきではないか

だからといって、研究者が質問を重ねて誘導するのは本末転倒だ。それではナラティブインタビューの意味がなくなる。

しかし、完全に放置するのも違う。対象者が語りやすくなるよう、さりげなく補助する。物語がスムーズに進むよう、方向を示す。いわば「方向指示器」の役割を果たすことが必要ではないか。

方向指示器は、車を操作するわけではない。運転するのはあくまで対象者だ。ただ、次にどちらに進むかを示すことで、流れがスムーズになる。

「方向指示器」の具体例

では、具体的にどのような補助が考えられるか。

時系列の確認

話が前後して分かりにくくなったとき、「それで、その後どうなったんですか?」と聞く。これは誘導ではない。物語の流れを整理する補助だ。

深掘りの促し

対象者が重要なことをさらっと言って通り過ぎたとき、「今おっしゃったことを、もう少し詳しく聞かせてください」と促す。これは研究者の関心を押し付けているわけではない。対象者自身の言葉を深めてもらう補助だ。

安心感の提供

沈黙が長くなって対象者が焦り始めたとき、「ゆっくりで大丈夫ですよ」と声をかける。これは介入ではない。対象者が安心して語れる環境を整える補助だ。

話の区切りの確認

一つのエピソードが終わったように見えるとき、「そこまでのお話、ありがとうございます。他に思い出されることはありますか?」と聞く。これは次の話題への自然な橋渡しになる。

介入と補助の違い

ここで重要なのは、「介入」と「補助」の違いを意識することだ。

介入は、研究者が物語の内容や方向を決めてしまうこと。「それはつらかったですよね」と感情を先回りしたり、「○○についてはどうですか」と話題を切り替えたりするのは介入だ。

補助は、対象者が自分の言葉で語りやすくすること。物語の主導権はあくまで対象者にある。研究者は、その物語がスムーズに流れるよう、さりげなく道を示すだけだ。

この線引きを意識しておけば、「方向指示器」は有効に機能する。

まとめ

ナラティブインタビューは「自由に語ってもらう」手法だが、自由に語れる人ばかりではない。寡黙な人、話の整理が苦手な人もいる。そういう対象者に対して、「自由に語ってください」と言って放置するだけでは、物語は生まれにくい。

研究者は聴き手に徹するだけでなく、物語がスムーズに進むよう「方向指示器」の役割を果たすことも必要だ。それは誘導ではなく、対象者が自分の言葉で語りやすくするための補助だ。

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この記事を書いた人

タイナーズ 代表 西山勝之

タイナーズの代表者。2006年以来、議事録作成は元より、整文、要約、質的研究素材づくりなど、広く言語に関わる業務の陣頭指揮を執っている。言語学を応用した研究領域の大学院既卒者(修士)。表現のニュアンスを大切にしている。