2026/01/22
ナラティブインタビューのポイントは「自由に語ってもらう」ことにある。研究者は最小限の質問にとどめ、対象者が自分のペースで体験を語る時間を重視する。理想的には、研究者は聴き手に徹し、対象者の物語に任せる。
しかし、現実はそう単純ではない。
自由に語れる人ばかりではない
対象者が饒舌で、話の組み立てが上手な人であれば、「自由にお話しください」という一言で物語が流れ出す。しかし、すべての人がそうではない。
寡黙な人、話すのが苦手な人は、自由に語れと言われても何から話せばいいか分からない。沈黙が続き、気まずくなる。話の整理が苦手な人は、語り始めても時系列が前後したり、話が飛んだりして、物語として分かりづらくなる。
つまり、ナラティブインタビューは対象者の属人的な要素に左右される手法だ。「自由に語ってもらう」という理念は美しいが、それが機能するかどうかは対象者次第、という側面がある。
研究者は「方向指示器」の役割を果たすべきではないか
だからといって、研究者が質問を重ねて誘導するのは本末転倒だ。それではナラティブインタビューの意味がなくなる。
しかし、完全に放置するのも違う。対象者が語りやすくなるよう、さりげなく補助する。物語がスムーズに進むよう、方向を示す。いわば「方向指示器」の役割を果たすことが必要ではないか。
方向指示器は、車を操作するわけではない。運転するのはあくまで対象者だ。ただ、次にどちらに進むかを示すことで、流れがスムーズになる。
「方向指示器」の具体例
では、具体的にどのような補助が考えられるか。
時系列の確認
話が前後して分かりにくくなったとき、「それで、その後どうなったんですか?」と聞く。これは誘導ではない。物語の流れを整理する補助だ。
深掘りの促し
対象者が重要なことをさらっと言って通り過ぎたとき、「今おっしゃったことを、もう少し詳しく聞かせてください」と促す。これは研究者の関心を押し付けているわけではない。対象者自身の言葉を深めてもらう補助だ。
安心感の提供
沈黙が長くなって対象者が焦り始めたとき、「ゆっくりで大丈夫ですよ」と声をかける。これは介入ではない。対象者が安心して語れる環境を整える補助だ。
話の区切りの確認
一つのエピソードが終わったように見えるとき、「そこまでのお話、ありがとうございます。他に思い出されることはありますか?」と聞く。これは次の話題への自然な橋渡しになる。
介入と補助の違い
ここで重要なのは、「介入」と「補助」の違いを意識することだ。
介入は、研究者が物語の内容や方向を決めてしまうこと。「それはつらかったですよね」と感情を先回りしたり、「○○についてはどうですか」と話題を切り替えたりするのは介入だ。
補助は、対象者が自分の言葉で語りやすくすること。物語の主導権はあくまで対象者にある。研究者は、その物語がスムーズに流れるよう、さりげなく道を示すだけだ。
この線引きを意識しておけば、「方向指示器」は有効に機能する。
まとめ
ナラティブインタビューは「自由に語ってもらう」手法だが、自由に語れる人ばかりではない。寡黙な人、話の整理が苦手な人もいる。そういう対象者に対して、「自由に語ってください」と言って放置するだけでは、物語は生まれにくい。
研究者は聴き手に徹するだけでなく、物語がスムーズに進むよう「方向指示器」の役割を果たすことも必要だ。それは誘導ではなく、対象者が自分の言葉で語りやすくするための補助だ。
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