2025/09/10
インタビュー逐語録をコード化していると、次のような状態に陥ることがある。
- 語りが「〜でした(例)」で止まり、コードが出来事メモの羅列になる。
- 場所や登場人物が違うだけの語りを、別概念としてコード化してしまう。
- 結果として、カテゴリーが増殖し、統合の論理が弱くなる。分析結果が「雑多な事例集」になってしまう。
この記事では、この問題を「再質問によって、例を概念まで引き上げる技術」として整理する。
「例で終わる回答」の典型パターン
例の列挙型
「Aでは〜でした」「Bのときは〜で」「Cの場合は〜」と事例が次々に出てくるが、共通点が言語化されないままコードが増えていく。一見データが厚くなったように見えるが、実際には「何が同じで、何が違うのか」が取れていない。
固有名詞依存型
「○○店で」「△△先生が」「□□の制度だと」のように、場所・人物・制度名がコード名に入り、表層属性ごとにコードが分裂する。結果として、「○○店での対応」「△△先生のときの判断」といった、比較不能なコードが量産される。
“気持ち”で終わる型
「不安でした」「嫌でした」「大変でした」と感情語で止まっており、何が条件で生じた不安か、どんな判断・行動につながった不安か、といった構造が抜け落ちている。
再質問で何を取りにいくか
再質問は「話を広げる」ためのものではない。狙いは明確に3つある。
1つ目は、反復可能な形にすること。別の事例にも当てはまる言い方へ引き上げる。
2つ目は、分岐条件を抜くこと。いつ、誰に、どの状況で起きるのかを明らかにする。
3つ目は、同型性を確認すること。場所や人物が違っても「同じこと」と言える根拠を取る。
この3点が取れたとき、コードは「例」から「概念」になる。
概念まで引き上げる再質問テンプレート
「それって結局、何を達成しようとしてます?」(目的抽出)
行動・対応・工夫の背後にある達成目標を取る質問である。トラブルを避けたいのか、関係性を壊したくないのか、責任を負いたくないのか。ここから「トラブル回避」「信頼維持」「責任分散」といったコードが生まれる。
「それが起きる条件は何ですか?」(条件抽出)
いつは起きないのか、どこで変わるのかを聞くことで、コードが単なる状況記述から条件付き一般化に上がる。
「その場面での判断基準は?」(ルール抽出)
語り手が使っている内的ルールを言語化させる。「相手が○○なら言わない」「記録が残る場では避ける」といった回答が得られる。これは後のカテゴリー化で最も効く情報になる。
「別の場所・別の相手でも同じですか?」(同型性チェック)
場所違い、人物違いでも同じ判断・行動が出るかを確認する。YESなら概念化が進む。NOなら差分条件が取れる。
「もし逆だったら?」(対照・境界線)
それが起きないケースは何か、どこまでが適用範囲かを聞く。概念の輪郭は、当てはまらない例で明確になる。
「見かけの多様性」に騙されるメカニズム
表層属性トラップ
場所・人物・制度など、説明しやすい差に引っ張られ、構造的に同じ語りを別コードにしてしまう。
物語トラップ
語りのストーリー性に没入し、なぜそうしたのか、何が同じなのかという構造の同一性を見失う。
ラベル先行トラップ
コード名が場面名になる。「保育園での対応」「病院での対応」といったコードには概念が入っておらず、比較・統合ができない。
場所違いの同一事例を見抜く「同型性判定」
同型性のチェック項目
次の3点を見る。目的が同じか、制約(リスク/コスト)が同じか、判断基準(ルール)が同じか。この3点が一致していれば、場所が違っても同一概念の可能性が高い。
差分が出たときの扱い
差分が出た場合、即「別概念」にしない。まずは条件、あるいは次元(dimension)として管理する。
たとえば、同じ「責任回避」でも、記録が残る場では強く発動し、口頭の場では弱く発動する、といった違いがあれば、強弱や発動条件として整理する。
実例
Before:例で止まっている逐語録
保育園では言わなかったんですけど、病院では一応説明しました。別の園ではまた違って…
事例は複数あるが、統合の軸がない。
再質問ログ
Q:それって、何を避けたかったんですか?
A:責任をこちらが全部負う形になるのが怖くて。Q:それはどんな条件のときですか?
A:記録が残らない場ですね。Q:判断基準は?
A:後で「言った・言わない」になりそうなら避けます。Q:場所が違っても同じですか?
A:はい、基本は同じです。Q:逆に起きないのは?
A:正式な書面がある場合ですね。
After:コード構造
コードは「責任回避」となり、サブコードとして「記録非存在時に強く発動」が付く。カテゴリーは「リスク管理行動」として整理できる。場所名コードから脱却し、比較可能な構造になる。
チーム運用:コード会議で使う再質問の順序
事例が出たら、この順で聞く。目的は? 条件は? 判断基準は? 他所でも同じ? 逆は?
合言葉は「今はまだ例。概念を抜こう」である。
よくあるつまずき
概念化しすぎてデータから浮く。根拠発話を必ず紐づけることで防ぐ。
何でも同じに見えてしまう。差分は条件や次元として残す。
再質問が尋問っぽくなる。「理解の確認」として言い換える。
まとめ
例を増やすより、目的・条件・判断基準・境界線を抜く。場所違いの多様性は、同型性(目的×制約×基準)で切る。コードを比較可能な単位にしてからカテゴリー化する。
↓ こちらでも触れています。
回答者が出来事の説明に終始。インタビュワー(研究者)が気づけるかどうか
https://www.tapeokoshi.net/2411/

