質的研究のコード化・カテゴリー化を体系的に解説|実践ガイド

カテゴリー名の付け方|名詞と動詞で意味が変わる理由【質的研究】

time 2026/01/01

カテゴリー名の付け方|名詞と動詞で意味が変わる理由【質的研究】

カテゴリー名の品詞設計とは

カテゴリー名の品詞設計とは、カテゴリーを名詞で表すか、動詞で表すか、あるいは「調整」「対処」といった介入語を含めるかを意図的に選ぶことです。

同じテーマでも、品詞が変わると「何を扱う棚なのか」が変わります。

たとえば、次の3つを比べてみてください。

  • 不安(名詞)
  • 不安になる(動詞)
  • 不安の調整(名詞+介入語)

いずれも「不安」を扱っていますが、そのカテゴリーに集まる内容はまったく異なります。

品詞 集まりやすい内容
名詞 不安 概念・状態・性質の説明
動詞 不安になる 出来事・状況・きっかけ
介入語付き 不安の調整 方法・スキル・行動

つまり、カテゴリー名は単なるラベルではなく、「この棚では何を理解し、何を語り、何を分析するか」を暗黙に指定しているのです。

なぜ品詞設計が必要か

カテゴリー名は、内容を整理する前に、自分自身の解釈と分析の方向を先回りして決めてしまう力を持っています。

品詞設計を意識せずにカテゴリー名を付けると、次のようなズレが起きます。

  • 概念整理のつもりが、介入や方法論の話になってしまう
  • 状況を集めたいのに、定義論ばかり集まる
  • 実践的な内容を扱いたいのに、抽象的な話が混ざる

多くの場合、原因はカテゴリ名と、中に入れたい情報の型が一致していないことにあります。

品詞を意識するだけで、カテゴリー設計の精度は大きく変わります。

品詞ごとの特徴と選び方

名詞化:状態や概念として扱う

名詞で作られたカテゴリーは、対象を一つの状態や概念として固定化します。

「不安」というカテゴリで集まりやすい内容:

  • 不安とは何か、という定義や説明
  • 不安の種類や特徴
  • 他の概念(恐れ、心配など)との違い

向いている場面: 知識整理、概念理解、用語の定義

注意点: 名詞化されたカテゴリーは重く、ラベル的になりやすい。分析していると「不安という属性がある」という静的な理解に留まり、そこから先の展開が見えにくくなることもあります。

動詞化:出来事として扱う

動詞形は、視点を状態そのものではなく、起こり方に向けます。

「不安になる」というカテゴリで集まりやすい内容:

  • どんな場面で不安になるのか
  • 直前に何が起きていたのか
  • 不安になったあとの行動や反応

向いている場面: 状況比較、パターン認識、振り返り

特徴: 不安は固定された性質ではなく、条件によって立ち上がる出来事として扱われます。「いつもこういうときに不安になる」といった分析が自然に生まれます。

介入語付き:方法やスキルとして扱う

「不安の調整」「不安への対処」といった表現は、名詞に操作や介入を示す語を組み合わせた形です。

このカテゴリで集まりやすい内容:

  • 具体的な方法やスキル
  • 手順、コツ、練習
  • 実際に行われた行動

向いている場面: 実践の分析、ハウツーの抽出、行動パターンの整理

注意点: この型は主体と責任を個人側に強く引き寄せる特徴があります。状況によっては「調整できないのは本人の問題」という含意を生みやすく、文脈を選ばずに使うとズレが生じることもあります。

命名時のチェックポイント

カテゴリー名を決めるとき、次の点を確認するとズレを防げます。

チェック項目 確認すること
集めたい情報の型 状態・出来事・介入のどれか
自分の分析意図 概念整理・体験分析・実践抽出のどれを目指すか
主体と責任の所在 意図せず一方に寄っていないか
粒度の一致 中に入る内容の粒度と合っているか

実践的な問い:

「このカテゴリー名を付けたとき、自分はここに何を入れようとするか?」

この問いに一度立ち止まって答えてみると、カテゴリー設計はより意図的で扱いやすいものになります。

よくある失敗パターン

失敗 原因 対策
概念整理のつもりが介入の話になる 介入語を含めてしまった 名詞のみにする
状況を集めたいのに定義論ばかり 名詞形にしてしまった 動詞形にする
実践を扱いたいのに抽象的な話が混ざる 品詞が曖昧 介入語を明示する

まとめ

カテゴリー名は、分類の結果ではなく、分析の入口です。

名詞にするのか、動詞にするのか、介入語を含めるのか。その選択は、集まるデータの質だけでなく、分析の方向性まで左右します。

品詞 扱い方 向いている場面
名詞 概念・状態 知識整理、定義
動詞 出来事・プロセス 状況分析、振り返り
介入語付き 方法・スキル 実践の抽出

内容を整理する前に品詞を決める。それだけで、カテゴリー設計の精度は大きく変わります。

FAQ

Q. 名詞と動詞、どちらを使うべきか迷ったら?

A. 「中に入れたい情報は何か」を先に決めてください。定義や概念を集めたいなら名詞、状況やきっかけを集めたいなら動詞が適しています。

Q. 一つのカテゴリーに複数の品詞を混ぜてもよい?

A. 避けたほうが無難です。品詞が混在すると、集まる情報の粒度がバラつき、後の分析が難しくなります。

Q. 「調整」「対処」などの介入語はいつ使う?

A. 具体的な行動や介入を扱いたい場合に使います。ただし、責任を個人に寄せすぎる含意があるため、文脈に注意が必要です。

この記事を書いた人

タイナーズ 代表 西山勝之

タイナーズの代表者。2006年以来、議事録作成は元より、整文、要約、質的研究素材づくりなど、広く言語に関わる業務の陣頭指揮を執っている。言語学を応用した研究領域の大学院既卒者(修士)。表現のニュアンスを大切にしている。